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2010/12/22

アドルフに告ぐ 1~4巻  手塚治虫

   
アドルフに告ぐ(1~4巻)新装版  手塚治虫



文藝春秋
2009年1月・2月発行(新装版)
1巻~4巻


「ブッダ」12巻に続き、手塚治虫の「アドルフに告ぐ」4巻を読み終えました。

漫画なのであっという間に読めました。

「アドルフに告ぐ」は、1983年~1985年にかけ「週刊文春」(文藝春秋)に連載されました。

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物語の概要はウィキペディアより抜粋しましたので、以下を参考にしてくださいませ。

第二次世界大戦前後のドイツにおけるナチス興亡の時代を背景に、「アドルフ」というファーストネームを持つ3人の男達(アドルフ・ヒットラー、アドルフ・カウフマン、アドルフ・カミル)の3人を主軸とし「ヒトラーがユダヤ人の血を引く」という機密文書を巡って、2人のアドルフ少年の友情が巨大な歴史の流れに翻弄されていく様と様々な人物の数奇な人生を描く。

作品の視点は主にカウフマンとカミルであり、ヒトラーは2人のドラマからやや離れて描かれているにとどまっている。

これらに日本人の峠草平が狂言回しとして加わり、ストーリーが展開する。

ベルリンオリンピックやゾルゲ事件、日本やドイツの敗戦、イスラエルの建国など、登場人物たちは様々な歴史的事件に関わる事になる。

『陽だまりの樹』と並び非常に綿密に設定された手塚治虫の後期の代表作。

以上。


物語のはじまりは、1936年8月のドイツ。

ベルリンオリンピックに沸くドイツへ、協合通信の特派員だった峠草平(とうげそうへい)は派遣されていました。

そして、8月5日ベルリン留学中の弟から1本の電話があり、重大な話があるから明日来てほしいと告げられます。

ですが、結局会いに行ったら弟は殺されていたのでした。

そこから長い物語が始まります。峠草平が全体の進行役となり話は進みます。

峠さんは各所各所に登場して、すべての登場人物と関わることになります。

ただ、ヒトラーとだけは面と向かっては出会いませんでしたが。

弟が殺されたのは、彼が「ヒトラーは実はユダヤ人である」ということを証明した文書を手に入れてしまったからでした。

その文書をめぐる、追う側追われる側の物語なのです。


ヒトラーに陶酔し、時期気に入られるアドルフ・カウフマンと、神戸に住むユダヤ人のアドルフ・カミル。

この2人も大きな核でしょう。

2人は幼い頃から日本(神戸)に住み、いじめられるカウフマンをカミルが助け、友情をはぐくんでいたのでした。

が、ドイツ人であるカウフマンはヒトラー学校へ行き、のちに大量殺戮に加わって行きます。

遠く離れた日本に住むカミルはそんなことも知らず、まじめに明るくパン屋を営む母親を助ける生活。

ユダヤ人なんて・・・とさげすみつつ、心の奥底ではカミルにまだ友情を抱いていたカウフマン。

物語の最後、カウフマンはカミルの父親を銃殺し、それを知ったカミルはカウフマンの子供と奥さんを銃殺します。

そして、カウフマンとカミルはお互い銃を向け合い、結局カウフマンが死にます。

撃ち殺したのカミルはがっくりと肩を落とし、おそらく涙を流して去って行ったのであろう背中が痛々しかったです。

何人もの登場人物がいて、それぞれ体や心に傷を負いそれでも前に歩いて行きます。

見るに耐えないひどい情景もたくさん出て来ますので、何度まゆをひそめたかわかりません。

じわりと目頭が熱くなることも一度や二度ではありませんでした。

この時代の映画を見たり物語りを読んだりすると、人間ってなんて愚かなんだろうと思わずにはいられません。

ですが同時に、強くて優しいまっすぐな心を持った人間の登場に希望を見ることもできました。

それが私にとっての峠草平でした。

実直で情にもろく、力強く陽気。理想の男性です。

物語終盤で、どっと涙があふれてしまったシーンがありました。

神戸空襲で気を失い救護所で目を覚ます峠さん。

なんの音もしないなと気づき、耳がちぎれて鼓膜が破れたと知り、「ワーッ」と大泣きしてしまうのです。

そばにいた亡き弟の恩師が気の毒そうに話しかけます(峠さんには聞こえませんが)。

その時峠さんは言うのです。

小城先生、誤解せんで下さい。こりゃ嬉し泣きなんです。ハハハハ

耳が聞こえなくなっただけですんでよかったと思ってるんです。

目をやられて・・・手足をもがれて・・・からだまでえぐられた人がゴマンといるでしょう。

私ァまだずっと幸せだ。

そうだ。手がありゃ筆談もできる。記事だって書けまさァ。ハハハハ・・・

なんてポジティブ。

それまでの峠さんの優しさやふんばりを見ているからなおさら感情がこみ上げたのかもしれませんが、とにかく今読み返しても泣けてしまいます。

峠さんはその後、アドルフ青年たちのことや戦争のことを本にします。タイトルは「アドルフに告ぐ」。

子供が孫に、その孫がまた子供にと、「世界中の何千万の人間が・・・正義ってものの正体をすこしばかり考えてくれりゃいいと思いましてね・・・つまんない望みですが」と、年老いた峠さんはカミル夫人に話します。

これは、手塚治虫さんの強い希望でもあったのではないでしょうか。

峠さんを通して想いを語ったように思います。

最後は次のように閉じられます。

これは、アドルフと呼ばれた三人の男達の物語である。

三人はそれぞれ異なった人生をたどりつつ、一本の運命に結ばれていた。

最後のアドルフが死んだ今、この物語を子孫達へ贈る。

DAS ENDE

峠さんの書いた本の最終文章という形になっているのですね。

「DAS ENDE」は、おそらくドイツ語でしょう。「THE END」のことでしょう。

国とか人種とか生とか死とか愛とか、いろいろなことをまとめて考えることのできる4冊です。


宝塚に手塚治虫記念館があります。彼は5歳から24歳までを兵庫県宝塚市で過ごしました。

私は以前宝塚にほど近い所に住んでいたことがあります。

それなのに、悲しいかな灯台下暗し。一度も記念館を訪れませんでした。

いつの日か足を踏み入れたいです。

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