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2010/12/03

どんぐり姉妹  よしもとばなな


「どんぐり姉妹」よしもとばなな
¥1,365(送料無料)



新潮社
2010年11月30日発売
152ページ


なぜか、よしもとばななさんの文章は俵万智さんを脳裏に浮かばせるのです。

顔はだいぶ違うおふたりですが、言葉にのほほんとただよう空気感が似てると以前から感じています。

よしもとばななさんの書く文章が詩的だからかしら。

とにかく、おふたりのほんわか心温まる表現力には、胸をきゅんとさせる媚薬がひそんでいるかと思われます。

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私にとって久しぶりのよしもとばなな小説。いちばん最近では今年はじめ頃に読んだ「なんくるない」が最後だったでしょうか。

本屋さんで平積みに置かれていたそのベビーピンクの表紙に、瞬時に目が行きました。

ひらがなの名前というのもやはり目立ちますしね。

よしもとばななか。そういえば最近読んでないな、と発行年月日を見ましたら、11月30日、当日ではないですか。

「私たちはサイトの中にしか、存在しない姉妹です。

私たちにいつでもメールをください。

時間はかかっても、お返事をします。」

メールは祈りをのせて。ネットが癒す物語。

という表紙帯の言葉たちを目で追い、珍しく即手にとりレジへ向かったのでした。


タイトルの「どんぐり姉妹」ですが、これはアラサーの姉妹ふたりがネット上で使っているペンネーム。

なんともかわいいではないですか。母が最近どんぐりの話をしていたのを思い出しました。

由来がすごいのですよ。姉の名前が「どん」で、妹の名前が「ぐり」という本名なのです。

2つ違いの姉妹であって、双子ではありません。

とても変わった無邪気でおかしな両親が、姉の「どん」が生まれた時に、「きっとこの子には妹ができるのよ」と、まだ見ぬ「ぐり」を想定してセットで名付けたのです。

物語は妹のぐりの1人称で進んでいきます。

私はこれまでいったい何人の人から、名乗った瞬間に『ぐりとぐら』からとったのですか?と聞かれ、あの大きなカステラの話に至っただろう。

本も何冊も集まってきて、今では自分であのカステラを作ることができるようになった。

気の毒なような気もしますが笑える。

だって私も本名が「ぐり」と読み知った瞬間、「ぐりとぐら」のイラストを思い描いたのですから。懐かしき愛すべき絵本でした。

どんとぐりの無邪気な両親は、朝ジョギング中に突っ込んで来た居眠り運転のトラックにはねられ死んでしまいます。

どん12歳、ぐり10歳のときでした。

その後親戚の家を転々とし、おじいちゃんの家に落ち着きます。

おじいちゃんの家での暮らしは、忘れがたく穏やかなものだった。

ふたりは心からおじいちゃんを愛し世話をし、彼もまた死にます。老人ですから。

ふたり暮らしを始めた姉妹は、アクティブで外交的な姉どんと、少し引きこもりがちな妹ぐりという組み合わせで生きて行きます。

ライターの仕事をする姉のどんが、仕事をしていない妹のぐりにある日案を持ちかけます。

それが「どんぐり姉妹」の仕事でした。仕事といってもお金をとるわけではないのでメールボランティアとふたりは位地づけました。

誰かに話したいけど話すほどでもないたわいない話をメールで送ってください、必ずお返事書きます、というのがどんぐり姉妹の立ち位地。

文才のある姉のどんがメールの返信をし、管理能力のあるぐりが秘書役を務めるという二人三脚。

ぐりはなかなか家から出られないけれど、いたって前向きなのです。

生きていて、頭の上に屋根があって、部屋には暖房があって、一人暮らしではなくって、おいしいものを作っている匂いが部屋に満ちていた。

それが嬉しい、なんという単純なことだろう。

特別なことなんてなにも望んでいない。

こんな気持ちを知ることができただけでいい。

と、お手製サムゲタンを食べながらぐりは思うのです。

サムゲタンといえば、物語の中には韓国ソウルを旅する姉と、ソウルの食べ物に詳しいその恋人などが出てくるシーンもあります。

10月にソウルへ旅をしたので、なつかしく読みました。

実際にあるであろうおいしいお店の名前も出てきたので、まとめて最後に記します。

よしもとばななさんは「なんくるない」では沖縄を舞台にしましたが、今回の「どんぐり姉妹」でも最後に姉妹で沖縄旅行をするシーンがあります。

旅にまつわる物語を紡ぐのが、ばなな小説の特徴のひとつでもありますよね。

おそらくよしもとばななさんも韓国が好きなのでしょう。

そんな想いを、姉が妹に韓国から送る以下のメールに感じます。

韓国にいると命がぐっと自分に近い気がする。

日本にいるときは、命をガラスのケースに入れて持って歩いている感覚なんだけど、韓国では目の前に命があって、自分が生きている、私の中で命が燃えているというのをふつふつと感じる。

私たちの小さかった頃の日本はそんな感じだったかもしれない。

これは姉どんの言葉というより、よしもとばななさん自身の言葉と感じてなりません。

だから彼女は旅をし、だから彼女は韓国が好きなのではないでしょうか。

それと、どんの送信する文章はとてもていねいで長く、妹にこれだけ真剣な思いをメールできる姉妹関係がうらやましくなりました。


妹ぐりには、ポルターガイストを起こしたり、夢か現実か迷うようなことを引き寄せる霊感のようなものがあるのです。

中学校の時恋をした麦くんが死んだのではないかと予知したり、ふと訪れた逗子で前から歩いてくる女性が麦くんのお母さんだとピンときたり。

でもそこに恐ろしさや寂しさのような影はなく、ただ現実として受け入れる穏やかな空気感があるのがばなな流。

どんぐり姉妹としての仕事メールのやりとりは、思ったより出てきません。

そこから姉妹がどんな影響を受けているのかも、文章では詳しく書かれていません。

そのことから、どんぐり姉妹としては苦しみ悩みイヤになったりはしていないのだな、ということがわかります。


ソウル旅行から姉が帰って来た1週間後、姉妹は沖縄へ旅行へ行きます。

姉の希望で実現した旅行で、死んだおじいちゃんが愛した焼き物を見て買って時を過ごします。

12月半ばに訪れたので、さすがの沖縄もひんやり寒かったよう。

「沖縄の冷たく甘い風に吹かれて」ぐりは思います。

その冷たさと甘さが混じった感じは、ちょうどアイスクリームが溶けていくときみたいな感じだった。

夏の風の匂いと冬のきらきらした冷たさがランダムにほほをなでていく。

うーん女性的で詩的な表現。ポエムかと思ってしまいます。


今はほんとうに旅をしているけれど、たとえ旅をしていないときも、旅をしているような暮らしだなと思った。

どこへ行くのかはわからない。

この、夢と現がまじりあって、たまに接触したり離れたりする大きな広い海の中を。

どんぐり姉妹は今日もゆく、と私は心の中でつぶやいた。

これで物語は終わります。

私が、最初にこの物語の筋書きってどのように書けばいいのかしらと思った疑問が、どんぴしゃラストで表現されていると思いました。

どんぐり姉妹の生活はまさに、
・旅をしているような暮らしで
・夢と現がまじりあって(これは霊感持ちぎみのぐりの場合)
・広い海の中にいるよう
なのですから。


現実社会でもがき苦しむ人たちがネット上に癒しを求め、どんぐり姉妹にたどり着き、そこから多少なりとも事件のようなものがあったりするのかな、と最初は想像していましたが、だいぶ違いました。

タイプは違うけど切っても切れない仲の良い姉妹が、それぞれのやり方で心地良く生きて行く道を書いた物語とでもいえばよろしいでしょうか。

心が弱っている時でも読める、ゆるゆるっとした癒し本でした。


本書記載の「おいしいお店」

①ソウル「チャムコッスル」・・・どんが彼氏に連れて行ってもらう名店

②沖縄「うりずん」・・・魚のマース煮

③沖縄「カラカラとちぶぐゎ~」・・・いか墨のにぎり・石垣島のラー油で炒めたエビ

④沖縄「こぺんぎん食堂」・・・お蕎麦。ひとり1個しか買えないラー油をかけた「ラー油かけご飯」



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