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2010/12/13

猫語の教科書  ポール・ギャリコ  灰島かり・訳



猫語の教科書 ポール・ギャリコ
¥609(送料無料)
 
 

筑摩書房・ちくま文庫
1995年7月25日発行
203ページ

15年前の本ですが、ぜひいろいろな方に読んでみていただきたい1冊です。

「猫語の教科書」は、1匹の猫が世の猫たちのために書かれた本ということになっています。

その「猫語」によって書かれた原稿を、ひとりの人間が訳して本にした、ということになっています。

どうやったら人間世界でうまく生きて行けるかを、猫が猫に教える教科書なのです。

ですが、もう少し深いところで、実は私たち人間を客観的に見てあれこれ指摘してくれている本でもあるのです。

にやにや笑いながら読み進めましたが、はっと気づかされる箇所も多い良書でした。

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語り役の猫は、自分は頭も良く顔も良く気力にあふれていると、自分にたいへん自信を持った猫。

自分だけではなく、猫という生き物はこの世で最高の存在であると、自分たちの種族に強い自信を持っています。

ですから、人間を見下す言い回しがたくさん出てきます。

それなのに腹が立たないのは、単に私が猫好きでおもしろがって読んでいるのと、ずばり言い当てているなと納得するからでしょう。

たとえば、のら猫から家猫に昇格するために、猫が使うべきワザの数々を披露します。

人間の男性と女性では、対応のしかたが違うのだと説いたあと、以下のように続くのです。


けっして、(くりかえしますけど)けっして、男性をおだててモノにする方法を、奥さんに使ってはダメ。

うまくいくはずがないんだもの。

なぜなら、奥さんは前から猫と同じ方法で、ご主人をあやつっているからです。

女性は多くの点で私たち猫に似ています。

似ているなんて迷惑な話だけれど、でも女性に対するときはいつもこのことを頭に入れておかなくてはなりません。

女性は猫と同じく生まれつきのハンターで、本能的で、獲物をあつかうときには残酷でさえあります。

猫は獲物をもてあそぶといって非難されるけれど、女性も同じ。

逃がしてやるふりをして、かわいそうな獲物がホッと息をつくと、それが一巻の終わり。

獲物にとびかかって、とどめの一撃を加えるのです。

女たちはものすごく頭がいいから、けっして軽く見てはいけません。

いうまでもなく女たちは、女につかまり制服された男たちよりもずっと賢いのです。・・・(略)・・・

猫がご主人を陥落させるためにどんなテクニックをどう使ったのか、全部奥さんにばれてしまう瞬間が、いつか必ずやってきます。

そのとき、猫と奥さんはお互いの本性を現さざるを得ないので、猫はそのときにそなえなくてはいけません。

長く引用してしまいましたが、こんなかんじです。

どきっとする女性も少なくないのではないでしょうか。

私は常々猫とある種の女性はそっくりだなと感じていたので、強く共感する文章の一部でした。


人間の座る椅子を、猫が気に入った場合。いかにその椅子を自分(猫)専用にするかという教えについては、人間の本質をよくつかんでいるなと感心させられます。

まず手始めに、その椅子の上でたっぷり時間をすごすこと。

丸まって眠りこんだり、眠っていないときでも眠ったふりをしたりして、猫がそこにいるのを家族の目に慣れさせます。

だんだんわかってくると思うけど、人間は習慣の動物で、しかもたいへん怠け者。

だから洗脳すればどんなことでも信じこむし、ある状況を運命として受け入れさせるには、目を慣らしてやりさえすればいいんです。

これを読むと、猫のほうが一枚も二枚も上手ですよね。本当に猫が内心そのようなことを考えていた場合の話ですが。


絶対にこれは人間の女性のことを示唆してるな、と感じたのは以下。

人間の家を支配するためには、自分の魅力をどう人間にアピールすべきか、知っていなくてはなりません。

表情、しぐさ、顔や体の動き、全部を使って、自分の魅力を輝かせるの。

だって猫はどんなときでも、妖艶でしとやかで、謎と魅惑に満ち、セクシーで官能的で、快活で愛嬌あふれ、おもしろくて人好きがして、愛の魔法で心かきみだし、心をそそり心を満たす、ほれぼれとかわいらしい存在であり続けなければならないんですから。

上記文章冒頭の「人間の家」を「男性」に変えれば、ほらね、そういう女性いるなと思いますでしょう。


同じように策略的女性を思わせるこんな文章もありました。

命あるものの中で、猫こそが最も優美な生き物であることは疑う余地がありません。

これをしっかり頭に入れておくこと。

寝そべったり、座ったり、歩いたり、からだをなめたり、ふざけたり、獲物を追ったり、つまりどんな姿勢で何をしようと、優美でなくてはいけません。

目的はもちろん、家族を魅惑し、うっとりさせておくため。・・・(略)・・・

おかげで猫が人間の家を乗っ取ったという事実はおおい隠されるというわけです。


内容全体が、人間を見下してると感じさせる表現が多いのですが、深く共感するところもたくさんあるのです。

長いこと人間と暮らして観察した結果わかったのですが、人間どうしのもめもごとの原因は、いつも必ずことばです。

人間って、しゃべってはもめごとの種をまきちらす変な生き物なの。

世の中で起こるほとんどは、ことばによってもたらされるマイナス現象から生じると私も思っているので、強く共感します。

動物がかわいいのは、ことばを発さないからだと思ったことはありませんか?

いやもちろん、見た目もしぐさも十分かわいらしいのですが、もし「ほら、私ってかわいいでしょう」「仕方ないからなでさせてあげるわよ」なんていちいちしゃべられていたりしたら、単純にかわいいとは言えない状況も増えるのではないでしょうか。

映画「ドクタードリトル」がおもしろおかしくそれを証明してくれました。

動物の声がすべてことばとして理解できてしまうということは、この上なく疲れるはず。

人間はことばを持っている唯一の生き物ですが、だからこそ動物の世界では起きえない事件もたくさん起きてしまうのです。


一見高飛車な内容の教科書ですが、わがままし放題ではいけないという猫なりの姿勢も書かれています。


猫が家を乗っ取ってくれていっしょに暮らしてくれるなんて、人間はなんて運がいいんでしょう。

猫がどんなに人間のためになっているか、猫ならみんな知っています。

でもそうだからといって、猫がマナーを守らなくてよいということにはなりません。

このことはちゃんとわきまえてほしいわ。

猫に対する教科書を書く立場として、しめるところはきちんとしめているのです。


最後のほうは愛について語られています。

人間と暮らしているといやでも学ばざるをえないことですが、人間はほんの少しのいいところを除くと、愚かだし、虚栄心は強いし、強情な上に忘れっぽく、ときにはずるくて不誠実でさえあります。

平気で嘘をついたり、表と裏があったり、破るとわかっている約束をしたりもします。

わがままで、欲張りで、考えが浅く、所有欲が強いくせに気まぐれで、おくびょうで、嫉妬深く、無責任で、ひとりよがりで、狭量で、忍耐心に欠けて、偽善的で、だらしない。

でもこういう悪いこと全部にもかかわらず、人間には愛と呼ばれる、強くてすばらしいものがあって、彼らがあなたを愛し、あなたも彼らを愛するとき、他のことはいっさいどうでもよくなります。

でもね、ここで忠告しておきますが、あんまり愛に溺れて自分を守ることを怠ってはいけません。

この本で身を守るいろいろな方法を楽しんで、しっかり身につけてください。

けなし放題けなしたあとに、でも愛はすばらしいとしめくくる。

だけどさらに、だからといって愛を信じすぎてはいけないと釘を刺す。

まるで人間に忠告しているかのようです。(いや、忠告しているのでしょうね)

愛こそすべて!では痛い目見るよと教えてくれているのです。

その優しいようで強い言葉に愛を感じます。


猫好きの方、猫嫌いの方、そして女性の気持ちを知りたい方、わたしたち人間という生き物を客観的に見てみたい方、ぜひぜひご一読なさることをおすすめいたします。

笑えますし、勉強にもなります。

これを機に、ポール・ギャリコさんの著作をいくつか読んでみたいと思います。

そして今後、猫を見たらいろいろ語りかけ本心をさぐってみたいと思います。


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