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2011/01/09

往復書簡 「十五年後の補修」 湊かなえ



往復書簡  湊かなえ
¥1,470(送料無料)



2010年9月発行
幻冬舎
265ページ


往復書簡」第2段です。「十五年後の補修」は、湊かなえ流サスペンス。物語が後半へ進むにつれひやひやどきどきが止まりませんでした。

純一と万里子という結婚間近のカップルが、手紙のやりとりによって中学時代の事件を思い起こし、触れなければ良かった真実が掘り起こされていく物語です。

純一が国際ボランティア隊として遠い国へ赴いたことから、文通が始まる。手紙を投函し相手が受け取るまで2週間かかる辺境の地。

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中学校時代の事件。それは、純一と万里子、そして同級生の一樹と康孝が関係します。

中二の二学期、一樹が康孝を殴っていた。

取り巻きは黙って見ているだけだった中、正義感の強い万里子は純一に止めに入るよう言ったが「関係ない」と突き放され、自ら「こんなことやめて!殴る人も、黙って見てる人も、みんなクズよ」と叫ぶ。

よくある中学生のイジメのシーンかと思いますが、そこは湊かなえ物語ですからただの小さな出来事では終わらないのです。

純一、万里子、一樹、康孝、それぞれの心の闇が少しずつ明かされていくのです。

万里子は、昔慕っていたいとこのお姉さんが夫からDVを受けていたのに何もできなかったことから、あの時の後悔を繰り返したくないという思いでイジメを止めた。

そうすることで、お姉さんを救えなかった後ろめたさを消せると思ったから。だから決して殴られる康孝に純粋に同情しただけというわけではなかったのです。

一方、一樹は親のことを侮辱した康孝が許せなくて殴った。

康孝は殴られても声も出さず冷笑するような、根性の曲がった子だった。

純一は、康孝がどのように一樹の心を傷つけたかを知っていたから、殴られるシーンをだまって見ていた。

その後、学校の倉庫で家事があり、一樹が焼け死ぬ事件がありました。駆けつけた純一により中で気を失い倒れていた万里子だけ助けられました。

さらに悲劇は続き、翌日校舎から康孝が飛び降り死んでしまいます。

康孝が、一樹と万里子を倉庫に呼び出し、カギを閉め中に閉じ込め、火を放った。でも殺すつもりはなく悪ふざけだったのに一樹は死んでしまった。その罪の意識から飛び降り自殺をした。

と、万里子は思っていたのですが、細部が実は違かったのです。細部といっても重要な部分になるわけですが。

すべてを知っていたのは、万里子が信頼し愛している純一だったのです。

純一が殺意を持ったというわけではないけれど、放った言葉により間接的に康孝を追い詰め自殺へ導いたとも言えたことが、2人の手紙のやりとりで明らかになるのです。

純一は何度か手紙でうそをつきます。しかしそれは一見自己防衛のうそではなく、事件の記憶だけぽっかり抜けた万里子を守るためだった。

記憶を取戻すことで精神的にショックを受ける万里子を見たくなかったからだというのは真実でしょう。

しかし、もう一方の側面から見れば、真実を伏せるためうそをついた自分を万里子が嫌わないための逃げだったとも受け取れるのです。

結局純一は正直者なので、万里子を失うことを覚悟でことのすべてを手紙にたくし、「きみを愛している。今日の手紙に嘘はない。」としめくくる。

でもちょうどそこに万里子が来ていたのです。はるばる遠いP国まで。

さっきから、外が妙に騒がしい。めずらしく、観光客でも来たのだろうか。」と純一は手紙に書いているのですが、それは万里子なのだと私たち読者は悟ります。

つまり万里子は、最後の手紙を純一が書いているときに彼の元を訪れる。その手紙には、自分が康孝を殺したも同然だと告白した純一がいる。

さて、万里子は手紙ではなく目の前の純一からそれを聞かされたとき、どのような結末を選択するのでしょう。

それはまた私たち読者の想像にゆだねられます。

純一は、万里子の自分への思いが、命の恩人だからの愛なのか、事件がなくても自分を選んだのか明確にわかりません。

たぶん万里子自身もわからなかったことでしょう。彼女はそこまで自分の気持ちを掘り下げては考えていなかったはずです。

だけど、最後の手紙により万里子は自分の気持ちと正面から向かい合うことになるのですね。

最後、万里子が来るだけでもたいへんな遠い国へ純一を訪ねてくるシーンで、一気に涙がこみ上げてきたのは私だけでしょうか。

どんな種類の涙なのか自分でもわからなくとまどいます。そこまで彼を愛してるのねという感動の涙とも違うのです。

過去をさらけ出さなければ幸せをつかめるのに、真実が2人を不幸にするかもしれない寂しさへの思いだったのか・・・。

真実より嘘のほうが人に優しいことは多々あるのに、それでも真実を追及してしまう人間の残念な欲深さに傷ついたのか・・・。

自分でもわからない感情を呼び起こすのも、湊かなえさんの作品ではよくある症状です。

何人もの登場人物を使い、あらゆる側面から物語を描くことで、こちらもいくつもの感情を持つことになるのだと思います。

人の心の微妙なひだを、手紙のやりとりという形式でよくもここまで書き表せるなと、再び湊かなえさんに脱帽です。


★湊かなえさんプロフィール

1973年広島県生まれ。
2007年「聖職者」で第二十九回小説推理新人賞を受賞。
同作を収録したデビュー作『告白』が2008年「週刊文春ミステリーベスト10」、2009年「本屋大賞」でそれぞれ第一位となる。

湊さん著書(一覧

    

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