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2011/01/24

羊をめぐる冒険(下) 村上春樹


羊をめぐる冒険(下) 村上春樹
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2004年11月発行(単行本は1982年10月発行)
講談社文庫
257ページ

上巻の感想


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人間を利用し、巨大な組織を築きあげるのが目的の羊。その羊に体と魂を乗っ取られた経験のある羊博士に、主人公と美しい耳の彼女は会います。

そのホテルの名は「いるかホテル」。羊と謎の鍵をにぎる主人公の友人「鼠」に会うため訪れた北海道にある、さびれた小さなホテルです。

このホテルを直感で決めたのは、耳の彼女でした。だけどあとになり、この決定は直感ではなくやはり未来を見通す能力のある彼女だからこその選択だったとわかります。

そのホテルの支配人の父親として隠居生活をしていた羊博士が、長い長い話のあと、2人に羊の居所を教えます。

そして、雪が降ると下りてくることができないくらい閉ざされた山奥に、2人は登頂するのです。

そこには、鼠がつい最近まで生活していたらしき山荘が見つかります。しかし鼠の姿はなく、2人はとりあえずそこで鼠の帰りを待つことにするのです。

しかし、朝目覚めると耳の彼女の姿は消え、変わりに現れたのが「羊男(ひつじおとこ)」なる男。羊男は汚くなった羊のぬいぐるみのかぶりものを着た変わった人間の男でした。

いろいろ秘密を知っているような雰囲気だけど、主人公には何も教えられないと告げるのです。耳の彼女にここを去ったほうがいいと進言したのも羊男でした。

その後、主人公はとうとう夜中「鼠」との再会を果たします。

しかし、彼は真っ暗な部屋に姿を現しはしません。声だけしか聞こえません。実は、主人公はすでに悟っていたのですが、鼠は死んでいたのです。

鼠の中に羊が入りこみ、もう少しで体も魂も乗っ取られるという直前に、自ら命をたったのでした。羊が自分の中で寝ている隙をねらっての行為でした。

つまり、鼠は羊の存在を抹消するために自殺していたのでした。

だから、主人公が会話をしているのは死んだ鼠とだったのです。

鼠は、弱さにつけこまれ羊に乗っ取られそうになったことを主人公に話します。

人は誰でも弱さを持っていると話す主人公に、一般論ではなく「たえまなく暗闇にひきずりこまれていく弱さ」だと語る鼠。

羊を葬るための最後の作業を主人公に託し、鼠は去ります。それは、柱時計の時刻を合わせ、コードをつなぐというシンプルなもの。

山を降り、この旅のきっかけを作った黒服の男に会うと、死の床にあった裏の権力者である先生は、1週間前に亡くなったということでした。

いるかホテルに戻り、羊博士に事のいきさつを伝え、現実に戻った主人公。耳の美しい彼女はもうどこにもいなくなっていました。

最後、行きつけのジェイズ・バーに寄り、羊をめぐる冒険で黒服の男から得た多額の小切手を店主に預け、鼠と自分を共同経営者にしてほしいと頼む主人公。あっさり承諾され、物語は終わります。

自分だけではなく、死んでしまった鼠もいっしょに、というところが、村上春樹らしくさらりと付け加えられていて素敵です。

村上作品には、「羊をめぐる冒険」も含め、ハイテンションな性格の登場人物はまず出て来ません。みな、寡黙で賢いタイプの人間ばかり。

そういう種類の人間を描くと、一見冷ややかな雰囲気で統一されてしまいがちですが、人間の持つ温かみを恩着せがましくなくプラスしているので、引き込まれるのでしょう。

魔性の耳を持つ彼女、黒服の男、猫の名づけ親となった運転手、羊博士、羊男・・・などなど、今回も風変わりで愛おしいキャラクターがそろった作品でした。

鼠の亡骸を静かに埋めてあげた羊男に、ぜひ会ってみたいなと思いました。



★村上春樹さんプロフィール

1949年京都生まれ、西宮市・芦屋市育ち。
早稲田大学第一文学部演劇科卒、ジャズ喫茶の経営を経て、1979年『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。
当時のアメリカ文学から影響を受けた文体で都会生活を描いて注目を浴び、村上龍とともに時代を代表する作家と目される。
2006年、特定の国民性に捉われない世界文学へ貢献した作家に贈られるフランツ・カフカ賞を受賞し、以後ノーベル文学賞の有力候補と見なされている。


村上さん著書(一覧

   

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