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2011/02/10

太陽の庭  宮木あや子

 
¥1,365(送料無料)


集英社
2009年11月発行
195ページ


宮木あや子さんの作品は近作が初めてです。独特の世界観に引き込まれました。頭をめぐるのは、日本神話、武家時代の大奥、ヨーロッパの伝承物語。

そして、サスペンスと推理ものが入り混じった少女小説のような趣きも醸し出します。異色のおとぎ話といったかんじでしょうか。

「太陽の庭」は、「野薔薇」「すみれ」「ウツボカズラ」「太陽の庭」「聖母」と分けられています。ひとつの物語なのですが、5つの区切りごとにそれぞれ語り手が違くなっています。いずれも小説内の登場人物です。

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東京のどこかに、ほとんどの人間が知らない「永代院」なる広大な地域があるというところから物語は始まります。地図には載っていなく、正式な住所がありません。そして、東京に古くから住みついている人間でさえ、ほとんどがその存在を知らないとされる不思議なところです。

そこには、戸籍のない高貴な人々が住んでいます。本来、永代院は、代々「由継(よしつぐ)」の名を継承する男が主として住まうための屋敷なのです。彼ひとりに、何人もの妻や子供たち、召使たちが尽くし、居住している城。帝国といってもいいでしょう。

戸籍がなく、運命を受け入れている様は、どこか私の想像する天皇家のようでもあるなと感じました。

妻の座を得れば一生安泰なため、子を産んだ女たちの戦いはひどく、特に男子を産んだ女性はいつの間にか死んでいる(殺される)ということも珍しくないという、大奥さながらの女の戦場。

東京から、月に1度財界の重鎮たちがぱたりと姿を消す日があるといい、その日は永代院への顔見せのような奉公のような儀式が執り行われます。

角界のトップの男たちは、なんとか自分の娘を永代院へ入れようと躍起になるのです。なぜなら、永代院をバックにつければ、現在と未来の生活と繁栄が必ず保障されるというのですから。逆に、永代院に見放されれば、一族は必ず崩壊させられると言われていたのです。

つまり、永代院は日本経済を闇で操る最も強力な存在で、どんな権力者にも恐れられる「神」と崇められる存在だというわけです。

角界のトップだからといって、誰もが永代院へ入れるわけではありません。多額のお金に厳しい審査、そして子供たちは容姿端麗でなくてはなりません。

運よく由継の子を産むことができても、障害があったり問題のある子は「処分」されてしまいます。他の女に密かに殺されてしまうこともあるのです。

冒頭から、時代錯誤の話の運び方で、一体いつが時代背景なのかしらといぶかしんだのですが、どうやら現代の物語のようなのです。


レトロな雰囲気を漂わせる物語は、表紙絵で十分に語られています。本の中には挿絵は一切ないのですが、この1枚で十分その世界観が理解できてしまいます。

描いたのは鳩山郁子さん。1968年生まれの漫画家です。ここにいる少女と少年2人は、永代院で生きて行くことを余儀なくされた3人。

美しい少女は、駒絵。実の親子以上に年が離れていながらも、由継の後妻として永代院へ入ります。

少年たちは、次期当主の摘出子、和琴(わごん)と、かつて由継が最も愛したと言われる女性(妾)の息子、駒也。由継は駒也も溺愛します。

時がたち、駒也と駒絵の間に子が生まれ、その罰として由継は和琴が20歳になったら殺せと駒也に命じます。いたって冷静に、淡々と。駒也は命令に背かず実行します。敬愛し仲の良かった和琴ですが、由継の命令には皆ロボットのように従うのです。

この物語では、生と死が感動や痛みをともなわず繰り返されます。その様は欲以外の感情を伴わない極めて異常なもの。

子が生まれれば、それが男の子であったら母親は将来の跡継ぎにさせるため血眼になる。時にはその子や母は他の母親から殺されることもある。実際、由継に愛された駒也の母親も、殺されていたのでした。

しかし、俗世間から一切切り離された存在である永代院には警察の手も及びません。なんらかの事件があろうと、警察は見て見ぬふり。

生まれたのが女の子であったなら、4年間「西の家」と言われる陸の孤島に「島流し」にされ、そののち永代院から出され有無を言わせず結婚させられる。もちろん、嫁ぎ先も嫁いだ娘の一族も、永遠の安定と繁栄を保障されるのですが。

感情移入して涙しやすい私が、このような淡々と死が描かれる小説を泣くことなく読み進められたのは、登場人物たちの感情の起伏がとてつもなく平坦で、みなロボットのような冷静さを持ち合わせていたからでしょう。

その裏にある感情は、あきらめと開き直りなのだと思っていました。ですが、永代院に入ることはこの上なく幸せなことで、下々の者たちには得られない幸運なことなのだと本気で信じる人間も少なからずいるよう。


物語後半は、前半とは様相が一変し、小さな週刊誌出版社(男性上司)の山下と柿生(女性部下)が永代院の存在を知りそれを世間に明かそうと奮闘します。

過去に山下は永代院の異様な実態を記事にし公表しようと試みましたが、編集長ににぎりつぶされ、連れ去られた女房は一部記憶を消されて戻されるという経験をしていましたが、若い柿生に背を押され本気の行動に踏み切るのです。

警察も国家も、永代院については固くガードしている中、印刷ぎりぎりで原稿をすり変えるという行動で、とうとう世に永代院の存在を知らしめることができます。

そのあたりはサスペンス物語の要素もあり、ドキドキしながら読みました。

ですが、実は由継は遠き昔から永代院を崩壊させたかったのだと、最後に私たちは知ることになります。偏った愛情を持ちながらも冷酷無比な人物象だと私はとらえていましたが、心の奥に熱く燃える秘めた感情を持っていたのでしょう。

永代院のような存在は、もしかしたら今現在の日本にもあるのかもしれないと感じます。ごく一般的に暮らしている私のような人間には知ることなく存在していてもおかしくはないと思うのです。

政府の秘密基地などは、グーグルのGPS検索でも塗りつぶされてそこに何があるか衛星からでさえ隠されていると本書にありました。

じっくりとグーグルの地図を眺めていたら、永代院のように塗りつぶされ住所もない土地が見つかるかもしれません。

宮木あや子さんの「雨の塔」という小説は、「太陽の庭」に出てくる西の家での出来事を描いているようで、2つの小説は重なり合う箇所が多いとのこと。

近々そちらも読んでみたいと思います。


宮木あや子さんプロフィール★

1976年神奈川県生まれ。
2006年「花宵道中」で第5回「女による女のためのR-18文学賞」大賞と読者賞をダブル受賞しデビュー。

宮木さん著書(一覧
  

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