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2011/02/22

妄想気分  小川洋子


妄想気分  小川洋子
¥1,365(送料無料)



集英社
2011年1月31日発行
187ページ


「妄想気分」は小川洋子さんのエッセイ本です。ふだんエッセイはまず読まないのですが、大好きな小川洋子さんの中みを少しでも知りたくて。

読み終えた今、読んでよかったなーと深く思います。

エッセイを読むと、その小説家の書く小説のイメージと実際の人物のイメージがかけ離れていたときの軽いショックを想像してしまうので避けがちなのですが、「妄想気分」は、まったくそんなことはありませんでした。

私が思う小川洋子さん像にぴたっと当てはまったし、新たな発見もあったし、今まで以上に好きになってしまいました。

今さらながらですが、そうか、エッセイってファンを増やす手段でもあるのだな、と初めて知りました。

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妄想気分」は、見開き2ページで終わってしまう小さな日常から、何ページかに渡って語られる日常まで、小川洋子さんの日々がていねいに書かれています。

そんなことまで知れてうれしい!というファンには喜びの思い出話も。

例えば、岡山から上京し早稲田大生だった頃の武蔵小金井女子寮の話。木造モルタルで定員5名というひそやかなこちらの寮では、みな「気持ち良くできる人々」で、節約料理の話に花を咲かせていたといいます。

うれしいことに、「当時よくこしらえたメニュー」として、4品が紹介されているのです。ライスコロッケ、竹輪と胡瓜のあえもの、かぼちゃそぼろ、納豆トースト。簡単に作れるこれらのレシピが載っています。

1986年から2002年まで小川さんが暮らした倉敷の町への愛着も随所に感じとることができます。

倉敷はいい町ですよと、誰にでも本心からそう言える。かつて暮らした町についてそう言える私は、幸運である。

大原美術館、年月を重ねた蔵など、本物があるという美観地区に、いつかぜひ足を運ばなければ。


小川作品といえば動物!というくらい、小川さんは動物好きに違いないとは思っていましたが、やはりそうでした。

定期的にある動物が訪ねてきて、しばらく私の中に棲みつく。」という言葉のあとに続くのは、メジロ、ハダカデバネズミ、象、ニホンカワウソ、アルマジロ、コビトカバ、ハムスター、アメリカンブルドッグ、インパラ・・・といくらでも遡って思い出せるとのこと。

この名前を見るだけでも、過去の作品がよみがえりドキドキしてしまいました。

象は、デパートの屋上へ連れて行かれ降りることができなくなってしまった寂しい物語があったなぁ、とか、コビトカバの背に乗って登校するミーナという女の子がいたなぁ、とか、懐かしいったらありません。

幼い頃動物園で見たワニのことが忘れられなく、「ずっとワニが胸の中に横たわっていた」少女時代についても語られます。

ご自身で飼われている、やんちゃ坊主でお調子者のラブラドール・レトリバーのラブについても、まるで文字から愛情がしみ出すかのように大切に紹介されています。

さあ、まいりましょうか、とラブは私を見上げる。」なんて何気ない表現だけれど、動物がまるでこうしゃべっているかのように、という文章が小説にもところどころあり、そのたびほほ笑ましい気分になってしまう私にとっては、やはり優しく響くのでした。


大体、新しいものより古いものに心惹かれる。・・・街を歩いていて古びた建物を見つけると、どうしても立ち止まってしまう。

・・・古くなるということは、そこに関わりを持った人たちの生きた証が、それだけ深くしみ込んでいるということだ。

建物に残った息遣いを感じ取ることで、名前も顔も知らない誰かと通じ合うことができる。

古いものに情を感じるところも、イメージにぴたりと当てはまります。ぼーっとするのが好きという小川さんの頭の中には、そこから物語が生まれ歩き出すのでしょうね。

本を読むことも書くことも好きな小川さんにとって、その境目はあいまいとのこと。

面白い本に出会うと、自分もこんな話が書きたいと思い、そこから新たな物語を頭に描き広げていく、というスタイルは、少女の頃から変わらなかったよう。


正直に告白すれば、今でもやはり、小説を書くのが怖い。」という、人気小説家になってしまったがゆえの恐怖心についても書かれています。こちらのタイトルは「恐る恐る書く」。


毎日をていねいにゆっくり生きたいと願う気持ちが伝わってくるエッセイでした。

そして、小川さんがいろいろなことに感謝をして生きる謙虚な人間であるということを知ることができ、とても幸せな気持ちになりました。

情報や流行を追わず、臆病でものぐさな一面もあって、小さなことにも愛情を注げる小川さん。

また何冊か読み返したくなりました。


小川洋子さんプロフィール★

1962年、岡山市に生まれる。
早稲田大学第一文学部卒。医大秘書室に勤め1986年、退職。
1988年、「揚羽蝶が壊れる時」により第七回海燕新人文学賞を、 1991年、「妊娠カレンダー」により第104回芥川賞を受賞。
2004年、ベストセラーとなった『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞受賞。

小川さん著作(一覧
  

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