チェック☆

2011/07/18

もしもし下北沢  よしもとばなな




毎日新聞社
2010年9月25日発行
269ページ


父親が不倫相手と心中したあと残された娘と母親の話です。
ずいぶん衝撃的なテーマで始まりますが、そこはよしもとばなな。
のほほんとした空気感を壊すことなく、切なさと懐かしさを入り混ぜて物語は進みます。

タイトルどおり舞台は東京の下北沢。
目黒に住んでいた一家でしたが、父親の死をきっかけに家を出たよしこ。
喫茶店でのアルバイトを決め、その店の向かいにあるアパートに住み始めました。そこが下北沢。

一人暮らしをきっかけに、つらい過去を振り切り前に進もうとするよしこでしたが、母親が舞い込んで来て同居することになります。
バンドマンだった優しい夫との思い出が詰まった目黒の一軒家にいるのがつらくて出て来たのでした。



父親が心中、と重い設定なのですが、どうやら謎の女性に巻き込まれて不覚の死を遂げたらしいということが、徐々に明らかになってきます。相手は誰もぴんとこない遠い親戚とか。彼女を見た誰もが、不気味で死を想像させる女性だったと発言。

お父さんを好きだったよしこ。職業柄多少の浮気は仕方ないと割りきりながら夫を愛していたよしこのお母さん。
二人はものすごく苦しみます。よしこはしょっちゅう泣きます。

そんな二人は、母子から友達のような関係に進化し互いに心地よい時間を過ごせるようになります。
その、少しずつ立ち直り前へ進む二人の関係性がほほ笑ましく、よしもとばななさんの優しさを感じました。自分が書いている小説の登場人物をいたわっているかのように、文章にほんわかした温度を感じるのです。

書く作家さんによってかなり読み手の印象が変わるテーマでしょう。
暗く落ち込んでしまいそうなテーマだからこそ、それを回避するよしもとばなな流の優しさが身にしみます。

文章に漂うその優しさは、下北沢という舞台こそどんぴしゃというように、しっくりなじみます。
まるでセピア色の映画を見ているかのよう。

お父さんの親友であり、彼のことをよく理解してくれていた山崎さんという男性も優しくよしこに寄り添います。
新谷君という、恋したようなそうではないような関係の男の子も、よしこを傷つけません。

人だけではなく、町にも優しさを宿らせることができるばなな節に、切ないはずなのにのんびり静かな気分でページを繰ることができました。


よしもとばななさんプロフィール

1964年東京生まれ。
日本大学藝術学部文芸学科卒業。
1987年「キッチン」で第16回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。
その後も次々と賞を取る。


著書(一覧

  
book ranking