チェック☆

2012/01/06

ジェントルマン  山田詠美


 


講談社
2011年11月
219ページ


あらすじ:

眉目秀麗、文武両道、才覚溢れるジェントルマン。その正体ー紛うことなき、犯罪者。
誰もが羨む美貌と優しさを兼ね備えた青年・漱太郎。その姿をどこか冷ややかに見つめていた同級生の夢生だったが、ある嵐の日、漱太郎の美しくも残酷な本性を目撃してしまう。
それは、紳士の姿に隠された、恐ろしき犯罪者の貌だったー。
その背徳にすっかり魅せられてしまった夢生は、以来、漱太郎が犯す秘められた罪を知るただひとりの存在として、彼を愛し守り抜くと誓うのだが…。
比類なき愛と哀しみに彩られた、驚愕のピカレスク長篇小説。



ピカレクス小説とは、ウィキペディアによると、16世紀~17世紀のスペインを中心に流行した小説の形式で、悪漢小説や悪漢譚、悪者小説とも呼ばるそう。

物語の主要人物、漱太郎は、まさに「悪者」。
そんな彼を愛してしまった同級生男子、夢生が主人公。

黒い装丁は、物語にぴったりの色。
人間の持つ二面性。そのうち、裏の黒いほうにスポットライトを当てた物語。

同級生にも教師にも、周りにいるすべての人間に一目置かれる漱太郎。
夢生は、他の人間同様、そんな彼に興味を持ちつつも、また違う目で見てもいた。夢生の親友である女の子、ケイも、漱太郎には別の顔があるのではないかと思っていた。
私もふたりと同じ想いを持ちながら読み進めた。

漱太郎は表では全ての人間に好かれる顔を持つジェントルマン。
だが裏では欲望のままに行動し、女性を傷つけ、飼っていたペットさえ「言うこと聞かないから」と殺してしまう残忍な男。

誰に対しても(それが親であったとしても)情を持つことのない漱太郎がただひとり強く心を傾けているのが妹貴恵子。
自分の所有物とし、かなり歪んではいるが、深く愛していた。

そんな貴恵子が本気で恋をしたシゲを無残な姿にし、殺す。
夢生は、ラストシーンで漱太郎を殺す。

漱太郎か夢生のどちらかが最後に死ぬのではないかと思っていたけれど、とても残酷な殺し方には驚いた。
だけどそこには、山田詠美らしい強い人間の「情」や「想い」がこめられていて、不意をつかれた私は号泣した。
とても心が傷ついた。お正月に読む話ではないかもしれない。

何に対しての涙だったのか、自分で自分を考える。
漱太郎の死が悲しいわけではない。それなら、夢生が選んでしまった人生に対してやるせなく思ったから?
わからない。
物語の枠を越え、人間の持つ悪意や悲しみについて深く考えてしまったことには間違いない。

もしかしたら誰もが漱太郎のような、いや、そこまでひどくはないにしても、悪意を抱え、それを何食わぬ顔で隠して生きているのかもしれない。
そう思えてしまうことが恐ろしい。

「ジェントルマン」はぞっとする小説。
負の要素から、人間の本質を考えてしまう小説。


★山田詠美プロフィール

1959年2月8日生まれ。
明治大学文学部日本文学科中退。
1985年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞を受賞しデビュー、芥川賞の候補にもなった。
1987年の『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞。

   
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