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2012/02/19

彼女のこんだて帖  角田光代

¥1,470(送料無料)



 ベターホーム出版局
2006年9月発行
142ページ



目次

1 泣きたい夜はラム

2 恋のさなかの中華ちまき

3 ストライキ中のミートボールシチュウ

4 かぼちゃのなかの金色の時間

5 漬けもの名鑑

6 食卓旅行タイ篇

7 ピザという特効薬

8 どんとこいうどん

9 なけなしの松茸ごはん

10 恋するスノーパフ

11 豚柳川できみに会う

12 合作、冬の餃子鍋

13 決心の干物

14 結婚三十年目のグラタン

15 恋の後の五目ちらし

16 今日のごはん、何にする? (あとがき)



とてもとても出会えて良かった1冊。
小説とレシピが1冊で楽しめる、まさに一石二鳥の本。
しかもどの小説からも小さな元気をもらえる。

短編小説が15作収められているのだが、1編が終わるとその中の脇役が次の小説の主人公になる、という形を最後まで繰り返す。

この形式がとてもおもしろい!
ちらりと出てきたこの人が、次の主人公かな?と目星をつけながら読み進めると、脇役にも想いを寄せることができた。

いや、人間誰一人脇役なんていない。
それぞれが人生の主人公。


今作の「つながり」は心温まるものばかり。
主人公たちは、思い出のレシピ、勝負のレシピ、主人の健康を気遣うレシピなど、それぞれ何らかの食べ物と関わる。

小説に出て来るレシピが、すべて実際つくることができるなんて実に魅力的。
私はさっそく2つのレシピを実践。
中華ちまきときのこマーボー。どちらもとても美味しかった。
今度つくってみたいのは、豚柳川。

もちろん、小説の内容も充実している。
5ページほどの短編なのに、気持ちに余韻を残すものばかり。
さすが角田光代さん。

表現力の美しさ、ユーモラスさ、優しさは、私が好きな角田さんの持ち味。


デパートに向けて歩き出しながら、ふと協子は、足元がぐらつくような感覚を覚える。
貧血か、と一瞬思ったがそうではない。
記憶が色濃すぎて、現実の光景を歪ませているのだ。


両手に荷物を抱え上階へと移動し、テーブルクロスを手にとって眺め、風船型のワイングラスを見比べる。
予算はとうにオーバーしていたが、必要経費だ、と協子は自分に言い聞かせレジへと向かう。
必要経費だ、私が元気になるための。


康平と過ごした四年間は、考えてみればこのラム肉みたいなものだったと協子はふと思う。
交わした言葉が、笑い合ったささやかなことが、言い合いしたつまらないことが、相手のことを考えた時間が、ともに目にした光景が、まわし読みした小説の一節が、すべてゆっくりと消化され、わたしの栄養になりエネルギーになった。
それは失われたのではなく、今もわたしの内にある。
あり続ける。


上記3つの引用は、たった1つの小説「泣きたい夜はラム 」にあったもの。たった1つの短い物語の中に、印象強い箇所が3つもあったなんて。


「かぼちゃのなかの金色の時間」も泣けた。


「決心の干物」も泣けた。以下に転載。

「あのねえ、おかあさん、おかあさんいなってよかったと思う?」自分のやけにまっすぐな声が耳に届く。
母は一瞬だまったのち、けらけらと電話口で笑い転げた。
「よかったか、よくないかなんて思ったことないわ。
だって私、なんだか生まれたときからあんたのおかあさんだったような気がするんだもの。
おかあさんじゃない自分なんて今さら想像できない」



小説を読じんわり温かい気持ちになり、レシピを見て料理をつくる。これはとても素敵な体験。

出会えて感謝の1冊。




角田光代さんプロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
1990年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞、1996年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、ほか著書多数。


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